くめちゃんのつぶやき脳No.339
◇新型コロナワクチンの接種前に知っておきたい用語の意味
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が続いているなか、日本でも首都圏を中心に2度目の緊急事態宣言は発令され、いよいよ緊急度が増してきました。
既に先進国ではワクチンの接種が始まっており、日本でも接種開始に向けて準備が進められています。
ワクチンの接種に関しては様々な情報が飛び交わっておりますが、ワクチンの効果や安全性に関する情報を正しく吟味するためには、使われている用語の意味を知ることが大切です。
その意味で、今回はワクチン関連の記事で目にすることの多い「副反応」「副作用」「有害事象」といった言葉の意味と違い、そして「プラセボ効果」と「ノセボ効果」について解説していきます。
まず、最初に日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」を参考に副反応と副作用について解説します。
・副反応とは
ワクチンを接種した人に現れる、目的とする免疫を獲得する反応以外の
症状、たとえば注射部位の腫れや発熱などです。
・副作用とは
治療薬を投与された人に現れる、治療効果以外の作用、例えば血液検査値 の異常や下痢や頭痛など。
これら、副反応と副作用のほかに、有害事象という言葉も臨床試験ではよく用いられます。
・有害事象とは、
治療薬やワクチンを投与された人々に発生する、薬やワクチンに関係する 体調の変化と、それらとは無関係の健康上の問題の両方が含まれます。
後者の例としては、別の病気によって生じた痛みや症状から始まって、
自転車に乗っていて交通事故に遭った、といったものまで含まれます。
それは、幅広く情報を収集することにより、想定されていなかった副反応 や副作用を発見できるかもしれないからです。
例えば、自転車に乗っていて事故に遭った背景には、服用した治療薬が
引き起こしためまいや視力障害があるかもしれません。
これら、有害事象報告の収集と分析は、薬やワクチンの安全性を高めて、 健康被害を防ぐために役立ちます。
私も退職5年間ほどは、本社の医薬品情報管理部門の長として、自社製品や関連領域の医薬品の副反応や副作用、あるいは有害事象例など安全性情報を収集し、厚生労働省に報告する義務を負っていました。
さて、新型コロナのワクチン開発で先行する米ファイザー社の臨床試験では、プラセボ群には生理食塩水が注射されています。生理食塩水は人間の体液と同じ浸透圧の0.9%食塩水ですので、健康被害はもたらさないものです。にもかかわらず、米ファイザー社 FACT SHEET FOR HEALTHCARE PROVIDERS ADMINISTERING VACCINEによれば、生理食塩水を投与された人たちのうち、最大で3人に1人は、疲労感や頭痛を訴えたと報告しています。
これは、ノセボ効果(nocebo effect)と呼ばれます。
ワクチンの接種が疲労感や頭痛などの副反応を引き起こすかもしれない、と不安に思っていると、プラセボを接種されたにもかかわらず疲労感や頭痛を感じる、というのがノセボ効果です。
この、ノセボ効果の逆が
プラセボ効果(placebo effect)です。
有効成分を含まないプラセボであるのに、効果を信じ、期待することで、実際に症状が改善する現象を言います。
この、プラセボ効果は私も臨床試験の現場で立ち会っていて実際に多く経験しています。
いずれも、薬やワクチン、医療者への信頼や期待、あるいはそれらへの不信や不安といった心理が大きく影響するために現れる現象だと考えられています。
プラセボ効果は、その薬が効くことを期待する患者の気持ちに、ノセボ効果は副作用や副反応を心配する患者の気持ちに由来するとの米国の研究法奥があります(Colloca L, et al. N Engl J Med. 2020;382:554-561. Published Online February 6, 2020)。
著者らは、ノセボ効果について、「気にかかる情報、間違った思い込み、悲観的な予測、好ましくない過去の経験、流布される否定的なメッセージなどが、有害事象の増加に関係し、さらには治療効果を減じる可能性がある」と述べています。
さて、日本でも2月下旬には、新型コロナウイルスに対するワクチンの接種が開始される見込みとなってきました。海外からの有害事象の報告を聞いて不安になり、接種を受けるかどうかを決めかねている人もいるかもしれません。そうした不安があると、たとえプラセボを接種されても体調が変化し、疲労感や頭痛、筋肉痛、下痢などする可能性があります。つまり、ワクチンの接種後に生じる有害事象には本人の心の持ちようも大きく影響する、ということを念頭に置いて、リラックスして接種に臨めば、結果は違ってくるかもしれません。
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