くめちゃんのつぶやき脳No.302 ◇妊娠中にとる食物繊維が重要! 少ないと赤ちゃんが肥満になりやすい?
妊娠中は食物繊維の摂取を意識して増やすのがいい!
健康を維持するために重要な腸活。
その腸活に不可欠な要素として話題になることが多いのが食物繊維です。最新の研究では、妊婦が食物繊維をしっかり摂取することが、自身の健康だけでなく、生まれてくる赤ちゃんの臓器形成や肥満リスク低下など、次世代の健康向上にも役立つ可能性が高いことが明かになってきました。
肥満や生活習慣病においては、生まれてからの食生活や運動習慣による影響ばかりが重要視されてきたが、生まれる前からの母親の食生活が、子どもの健康に大きな影響を与えそうなのです。
今回は、妊婦が食物繊維を多く摂取していると、生まれてくる子どもの将来の肥満やメタボリックシンドロームのリスクが減る可能性がある、という内容です。
この研究は、東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門の木村郁夫教授らと慶應義塾大学薬学部の長谷耕二教授らの研究チームによるもの。
妊娠したマウスを2グループに分け、一方には食物繊維の少ないエサを、もう一方には水溶性食物繊維イヌリンを10%加えたエサ(高食物繊維食)を与えて飼育し、その後、生まれた子どもマウスは両グループとも離乳後高脂肪食で飼育した。
すると、食物繊維の少ないエサを与えた母親から生まれた子どもマウスは成長するにつれて肥満になったが、食物繊維を多く含むエサをとっていた母親から生まれた子どもマウスは、明らかに肥満が抑えられたという。
興味深いことに、腸内細菌を持たない無菌状態の妊娠マウスに食物繊維を多く含むエサを与えても、生まれた子どもは低食物繊維食の母親から生まれた子と同じように重度の肥満になったという。
つまり、子どもの成長の仕方や将来の体形に、母親の腸内細菌が関与するということを意味しています。
食物繊維を多く与えた母親マウスの腸内では、食物繊維を腸内細菌が分解して増える短鎖脂肪酸という物質が多く作られていた。
そこで、その関連性を調べるため、無菌マウスや低食物繊維食の妊娠マウスのエサに短鎖脂肪酸の一種であるプロピオン酸という成分を加えたところ、生まれてきた子どもは、高脂肪食を食べ続けても肥満が抑制されたという。
これは、腸内細菌が食物繊維を食べて作り出す短鎖脂肪酸が、子どもの肥満の抑制に関わっていることを示しているといえる。
木村教授らはこれまでに、胎児の時点で既に腸や交感神経、膵臓などの臓器に、短鎖脂肪酸のセンサー(受容体)が多く存在することを研究で確認されています。
胎児の臓器や神経に短鎖脂肪酸の受容体が多く存在しているということは、その子のエネルギー代謝を整えるという意味で極めて重要な意味を持つという。
「胎児は基本的に腸内細菌を持たず、お腹の中では食事もとらない。おそらく、母親の腸内で作られた短鎖脂肪酸、または何らかのシグナルを血液や胎盤を介して胎児が感知するために、胎児期においても既に短鎖脂肪酸の受容体が存在しているのではないか」と木村教授は述べています。
実際に、受容体が短鎖脂肪酸を感知して活性化すると、神経や腸、膵臓などの臓器の細胞の分化が促進することも確認された。
「これは、母親の食物繊維摂取が子どものエネルギー代謝を整えるだけでなく、胎児期における臓器の発達にも関わることを示唆している」と木村教授は説明している。
これまで、子どもの臓器の発達に影響する栄養素として妊娠中の摂取が重要視されてきたのは鉄や葉酸、亜鉛、たんぱく質などが主だったが、新たに食物繊維も、子の発達形成において重要な役割を担う可能性が示唆されたわけだ。
食物繊維は水溶性と不溶性に大別され、腸内細菌が代謝しやすいのは水溶性食物繊維。
一方、子どもの成長と腸内細菌の関係に詳しい、東京女子医科大学小児科学講座の永田智教授は、もう一つの可能性についても指摘する。「高食物繊維食を食べた母親の腸で増えた“太りにくい腸内細菌”を、胎児がお腹の中で直接受け継いだことで、子どもの腸で太りにくい腸内細菌叢が形成された可能性もある」とも。
永田教授によると、母親の腸内細菌叢の情報が子どもに受け渡される可能性について研究報告があるという。
母親の腸内細菌叢をもとにして「こういう腸内細菌を作っておくとよさそうだよ」と、子どもの腸に定着させる菌を選別する設計図のような情報が受け渡されているという考え方だ。
つまり、母親が高食物繊維食を食べることで出来上がった太りにくい腸内細菌叢を、生まれてきた子どもが受け継ぐ可能性があるとうこと。
では、とるべき食物繊維量はどのくらいなのだろう。
米国やカナダでは「成人で1日当たり24g以上、できれば14g/1000kcal以上」とされている。
この春、改定された「日本人の食事摂取基準(2020年版)」での食物繊維の摂取目標量は、成人男性で21g以上、成人女性で18g以上と大きくかけ離れている。
つまり、日本では食事摂取基準で定められた目標量をとっても、まだまだ足りていない可能性もあるということも考えられる。
自身の健康はもちろん、生まれてくる子どもが健やかに育つためにも、妊娠中は日ごろの食事からの食物繊維の摂取を意識して増やすとよさそうですね。