くめちゃんのつぶやき脳No.297 ◇日本人女性でも確認された飲酒が乳がんリスクを上昇させる
日本人女性の乳がん発症リスクの上昇に飲酒が関係することが、約3万3000人を20年以上追跡した観察研究で明らかになりました。
近年、日本人女性の乳がん発症率が上昇しています。
海外で行われたいくつかの研究では、飲酒が乳がんリスクを高めることが示唆されていますが、日本人の女性でも同じことが言えるかどうかは不明でした。
そこで今回、京都大学などの研究者たちは、アルコール飲料も含む一般的な飲み物が日本人女性の乳がんリスクに及ぼす影響を調べるために、「JACCスタディ」(*1)の参加者のデータを分析しました。
JACCスタディでは、飲料の摂取習慣や、その他の生活習慣に関する情報を、質問票を用いて収集していました。
*1 日本人におけるがんの発生に関係する要因を検討するために1988年に始まった大規模観察研究。
著者らは今回、アルコール飲料のほか、非アルコール飲料の代表である緑茶とコーヒーの摂取と乳がんの関係について検討しました。
コーヒーや緑茶が健康に好ましい影響を及ぼすことを示した報告は複数ありますが、それらの飲料と乳がんリスクの関係については、これまで一貫した結果は得られていなかったからです。
緑茶とコーヒーの摂取頻度は、以下の4つから選択してもらいました:毎日/週に3~4杯/週に1~2杯/月に1~2杯。
飲酒習慣についてはまず、飲酒歴なし/過去に飲酒していたが今はなし/現在も飲酒習慣あり、のいずれかを選択してもらい、現在も飲酒している人には、飲酒頻度(週1回未満/週に1~2回/週に3~4回/毎日)、1回の飲酒量、好んで飲むアルコール飲料の種類(日本酒/ビール/ウィスキー/ワイン/その他、複数選択可)も選んでもらいました。
また、分析に影響を与える可能性のある要因として、研究に参加した時点の年齢、学歴、BMI(体格指数)、青野菜の摂取頻度、赤身肉の摂取頻度、運動量、喫煙習慣、出産歴、乳がん家族歴、初潮年齢などの情報を収集しました。
分析対象としての条件を満たし、20年以上にわたる追跡を完了できて、必要な情報がそろっていたのは、国内の24地域に住む、40歳から79歳の女性3万3396人(研究参加時点の平均年齢は57.7歳)でした。
これらの女性が最も多く摂取していた非アルコール飲料は緑茶でした。参加者の81.6%が毎日飲むと回答していました。
一方で、コーヒーを毎日飲んでいたのは34.7%で、アルコール飲料を飲むと回答していた女性は23.6%にとどまりました。
1988年から2009年までの期間に、3万3396人のうちの255人が乳がんを発症、または、発症後に乳がんで死亡していました。
分析に影響する可能性のある要因を考慮した上で、乳がん発症リスクと、緑茶、コーヒー、アルコール飲料の摂取の関係を調べました。
緑茶とコーヒーの摂取と乳がんリスクの間には、統計学的に有意な関係は見られませんでした。
一方で、アルコール飲料の摂取は乳がんリスクの上昇に関係していました。お酒を飲まない人と比較した飲酒者の乳がん発症リスクは1.46倍と、46%高くなりました。
飲酒頻度に基づいて飲酒者を層別化したところ、統計学的に有意な乳がんリスクの上昇が見られたのは飲酒頻度が週1回未満だった女性で、乳がんリスクは2.07倍と、飲まない女性に比べて107%も高くなっていました。
しかし、それ以外の、週に1~2回、週に3~4回、毎日、と回答した女性のリスク上昇は有意にならず、飲酒頻度が増えるにつれてリスクが上昇する現象も見られませんでした。
また、好んで飲むアルコール飲料が日本酒またはビールの場合には、乳がんリスクとの関係は有意になりませんでした。
ワイン、ウィスキーの摂取は、統計学的に有意なレベルにわずかに足りないものの、リスク上昇傾向を示しました。
ワイン愛飲者のリスクは、ワインを飲まない人に比べ1.8倍程度、ウィスキー愛飲者では1.7倍程度高いと推定されましたが、どちらも人数は少なく、750人程度でした。
飲酒頻度が高いほど乳がんリスクも高くなる現象が見られなかったことについて、著者らは以下のように考察しています。
「これまでに行われた、飲酒と乳がんリスクの関係について検討した研究では、アルコールの摂取が女性ホルモンであるエストロゲンの濃度を上昇させること、エストロゲンが乳がんの発症に関係すること、また、飲酒のパターンのうち、大量飲酒によるエストロゲン濃度の上昇が大きいことが示されている。
今回対象となった女性の飲酒量については、特に週1回未満の人々においてデータが得られなかった人の割合が高かったため、分析できなかった。飲酒の頻度が週1回未満の女性が、頻度は少ないものの、1回で大量のアルコールを摂取していたと考えれば、他のグループよりもリスク上昇が大きかったことを説明できる可能性がある」
原著論文
Sinnadurai S, et al. Asian Pac J Cancer Prev. 2020 Jun 1;21(6):1701-1707.