くめちゃんのつぶやき脳No.387
◇妊娠中にとる食物繊維が少ないと赤ちゃんは肥満に?②
前回、食物繊維を多く与えた母親マウスの腸内では、食物繊維を腸内細菌が分解して増える短鎖脂肪酸という物質が増加し、また、胎児の時点で既に腸や交感神経、膵臓などの臓器に、短鎖脂肪酸のセンサー(受容体)が多く存在することを紹介しました。
実際に、受容体が短鎖脂肪酸を感知して活性化すると、神経や腸、膵臓などの臓器の細胞の分化が促進することも確認されています。
これは、母親の食物繊維摂取が子どものエネルギー代謝を整えるだけでなく、胎児期における臓器の発達にも関わることを意味します。
これまで、子どもの臓器の発達に影響する栄養素として妊娠中の摂取が重要視されてきたのは鉄や葉酸、亜鉛、たんぱく質などが主だったが、新たに食物繊維も、子の発達形成において重要な役割を担う可能性が示されたことになります。
食物繊維は水溶性と不溶性に大別され、腸内細菌が代謝しやすいのは水溶性食物繊維です。
したがって、どのような食物繊維をとるかも胎児の発達に影響を与えるかもしれません。
一方、子どもの成長と腸内細菌の関係に詳しい、東京女子医科大学小児科学講座の永田智教授は、「高食物繊維食を食べた母親の腸で増えた“太りにくい腸内細菌”を、胎児がお腹の中で直接受け継いだことで、子どもの腸で太りにくい腸内細菌叢が形成された可能性もある」と述べています。
擬人化して例えるなら、母親の腸内細菌叢をもとにして「こういう腸内細菌を作っておくとよさそうだよ」と、子どもの腸に定着させる菌を選別する設計図のような情報が受け渡されているということもありえます。
つまり、母親が高食物繊維食を食べることで出来上がった太りにくい腸内細菌叢を、生まれてきた子どもが受け継ぐ可能性があるということです。
近年、医学界では、「発達過程(胎児期や生後早期)の低栄養をはじめとした様々な環境により、将来の健康と疾病のリスクが決定する」という「胎生期プログラミング説(DOHaD説)」が注目されています。
今回の研究もその一つ。
では、とるべき食物繊維量はどのくらいなのだろう。米国やカナダでは、健康や死亡率との関連調査をもとに算出した食物繊維の摂取目標量は「成人で1日当たり24g以上、できれば14g/1000kcal以上」とされているが、この春、改定された『日本人の食事摂取基準(2020年版)』での食物繊維の摂取目標量は、成人男性で21g以上、成人女性で18g以上と大きくかけ離れている。
これは、日本人の場合、平均的な食物繊維摂取量がこの数字と大きくかけ離れていることから、理想的摂取量と平均的な摂取量の中間値を参照した上で制定されたという背景があります。
つまり、食事摂取基準で定められた目標量をとっても、まだまだ足りていない可能性もあるというわけです。
自身の健康はもちろん、生まれてくる子どもが健やかに育つためにも、妊娠中は日ごろの食事からの食物繊維の摂取を意識して増やすとよさそうです。
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