くめちゃんのつぶやき脳No.279 ◇3週間で「うつ」が改善した健康的な食事とは
中等症から重症の抑うつ症状がある若い人が、質の低い食事をやめて健康的な食事に切り替えると、3週間後に抑うつ症状が軽減したという、オーストラリアMacquarie大学の報告*1)がありましたので紹介します。
一般に、質の低い食事とは、加工食品や飽和脂肪酸(肉の脂身やバターなど動物性の油脂)、精製糖(砂糖)を多く摂取する食事を指し、健康的な食事とは、果物、野菜、魚、赤身肉を豊富に摂取する食事とされています。
食事の内容は、身体的な健康のみならず、精神的な健康にも影響することが分かっており、近年、健康的な食事は抑うつ症状のリスクの低下と関係することが示されていました。しかしこれまで、食事の質と抑うつ症状の間に因果関係があるのかどうかは、明らかになっていませんでした。
両者の因果関係を検討するためには、抑うつ症状のある人々を登録し、健康的な食事をとってもらって、症状が軽減するかどうかを調べる質の高い無作為化(ランダム化)試験が必要です。そこで、研究では対象を若い成人に絞って小規模の無作為化試験を行うことにしました。若い成人に絞ったのは、思春期や成人期の早期は、うつ病を発症するリスクが上昇しており、かつ、健康的な生活の基礎を築く時期でもあるからです。この時期に好ましい食習慣を身につければ、生涯にわたって利益が得られる可能性があります。
臨床試験の対象は、以下の条件を満たす同国の大学生としました:年齢は17~35歳、抑うつ症状は中等症以上(DASS-21〔うつ・不安・ストレススケール-21〕のうつサブスケールのスコアが7以上)、食事の質を評価するDFS(Dietary Fat and Sugar Screener)のスコアが57超(オーストラリアの健康な食事ガイドの推奨レベルに満たない質の低い食事をとっていることを示す)。摂食障害や代謝性疾患、うつまたは不安以外の精神疾患歴のある患者などは除外しました。
条件を満たした101人を登録して、無作為に、3週間の食事介入を行う群(介入群、51人)、または、通常の食事を継続する群(対照群、50人)のいずれかに割り付けました。介入群には、栄養士が、動画を利用して食生活の改善方法を指導しました。
推奨する食事の内容は、オーストラリアの健康な食事ガイドをベースに、うつリスクの低下に関係することが示されている地中海食の内容を組み入れるなどして、栄養士が設定しました。
具体的には、表のような食事をとるよう指導しました。参加者には、レシピやメニューの例を提示し、FAQ集とトラブルシューティングのための資料を配布しました。対象が学生であるため、短時間で調理できる低コストのレシピを中心に紹介するとともに、オリーブオイルやナッツ、スパイスなどは提供し、条件を満たす食品に限定した購入費用の援助も行いました。
介入群が指導に沿った食事を摂取していたかどうかは、過去3週間の、推奨された食品群の摂取頻度を問う調査(Diet Compliance Score)を行って判断しました。果物と野菜の摂取量については、分光測色計を用いて1人1人の皮膚の色を測定し、フラボノイド摂取量を推定する方法を用いた評価も行いました。
試験終了時に、分析に必要なデータが全てそろっていたのは、介入群、対照群ともに38人でした。介入群の38人については、自己申告においても、分光測色計を用いた客観的評価においても、指導に沿った食事をしていたことが確認できました。
介入開始から21日後の抑うつ状態を評価したところ、抑うつ状態の自己評価尺度であるCESD-R(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale- Revised)のスコアは、介入群で有意に改善していました。介入初日の平均スコアは両群ともに16以上(介入群20.56、対照群20.28)で「臨床的なうつ症状あり」と判断されましたが、介入群の21日後の平均スコアは16未満(介入群14.62、対照群20.81)で、臨床的なうつではなくなっていました。
DASS-21うつサブスケールを用いた評価も同様でした。介入初日の平均スコアは、両群ともに中等症以上(介入群7.18、対照群7.03)でしたが、介入群の21日後の平均スコアは5未満に低下し(介入群4.37、対照群6.59)、正常域にありました。加えて介入群では、DASS-21の不安サブスケールとストレスサブスケールも有意に低下していました。
一方で、21日時点の感情プロフィール(緊張、抑うつ、怒り、疲労、活気、混乱という一過性の感情について評価)は、6項目のどれにも有意差は見られず、記憶能力にも差はありませんでした。
なお、介入終了から3カ月後に電話で接触できた介入群の33人の抑うつ状態を調べたところ、DASS-21うつサブスケールのスコアは21日後時点から有意に変化しておらず、改善された値が維持されていました。その時点の食事の内容を尋ねたところ、33人中7人(21.2%)は推奨された食事を継続していると回答し、19人(57.6%)は推奨にある程度従っていると述べ、7人(21.2%)は介入期間とは異なる食事をとっていると語りました。しかし、これら3群のスコアには有意差は見られませんでした。
以上の結果は、抑うつ症状がみられる若者に対する短期的な食事介入は可能で、有効であることを初めて示しました。研究者たちは今後、利益が継続する期間を調べ、異なる食事法の影響の大きさを比較し、質の高い食事の摂取が抑うつを軽減する仕組みを研究する必要があると考えています。
*1 Francis HM, et al. PLoS One. 2019 Oct 9;14(10):e0222768.