くめちゃんのつぶやき脳 No.126 ◇植物性たんぱく質に脳卒中などの予防効果が 高血圧がない人で特に大きなリスク減少、日本の大規模疫学研究より
30歳以上の日本人を対象にした大規模疫学研究で、大豆などに豊富に含まれる植物性たんぱく質の摂取量が多い人ほど、心筋梗塞や脳卒中による死亡リスクが低いという逆相関関係があることが明らかになりました。
この逆相関関係は、特に高血圧がない人々において強くみられることも分かりました。
日本を含む東アジアの国々では、西欧諸国に比べて脳卒中患者の割合が高く、血圧管理の重要性が高いと考えられています。
これまでに、血圧の高さは植物性たんぱく質の摂取量と逆相関するという研究結果が報告されていますが、植物性たんぱく質の摂取量と、脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患のリスクの関係は明らかになっていませんでした。
そこで、慶應大学衛生学公衆衛生学の栗原綾子先生らは、植物性たんぱく質の摂取と心血管疾患による死亡の関係について調べるために、NIPPON DATA 90(*1)という大規模疫研究の参加者の中から、条件を満たす人々を選びました。
*1 NIPPON DATA 90:1990年に始まった大規模疫学研究。日本の300地域に住む、30歳以上の一般住民を無作為に選んで追跡し、死亡と死因について調査している。
この研究に参加した時点では心血管疾患ではなかった7744人(平均年齢52.6歳、男性3224人、女性4520人)を分析対象にしました。それらの人々について、登録時に収集した連続3日間の食事記録に基づいて、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の摂取量を計算しました。
1日当たりの植物性たんぱく質の摂取量の平均は、摂取エネルギー量の7.2%(植物性たんぱく質エネルギー比率)に相当しており、男性では7.1%、女性は7.3%でした。
2015年11月15日まで、平均13.9年追跡したところ、その間に1213人(男性649人、女性594人)が死亡していました。
うち354人(29.2%)が心血管疾患により死亡しており、そのうち144人の死因は脳卒中(88人が脳梗塞、28人が脳出血、28人はそれ以外の脳卒中)でした。
植物性たんぱく質の摂取量と心血管疾患による死亡の関係を調べたところ、脂質やナトリウムの摂取量やBMI(体格指数)とは無関係に、両者には逆相関関係があることが明らかになりました。
植物性たんぱく質エネルギー比率が1%増加するごとに、心血管疾患死亡のリスクは14%低下していました。
心血管疾患を、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)、脳卒中(脳梗塞や脳出血)、脳梗塞、脳出血というサブグループに分けて分析すると、脳出血による死亡は、植物性たんぱく質摂取量との間にやはり逆相関関係を示しました。
植物性たんぱく質のエネルギー比率が1%増加するごとに、脳出血による死亡リスクは42%低下していました。
それ以外のサブグループでは、植物性たんぱく質摂取量との間に統計学的に有意性な関係は見られませんでした。
次に、対象者を高血圧の人と高血圧ではない人に分けて分析しました。
その結果、植物性たんぱく質の摂取と心血管疾患による死亡の間の逆相関関係は、高血圧でない人々の方が強力にみられることが示されました。
高血圧でない人では、植物性たんぱく質のエネルギー比率が1%増加するごとに、心血管疾患死亡のリスクは32%低下していましたが、高血圧患者では統計学的に有意なリスク低下は見られませんでした。
サブグループについても同様に分析したところ、高血圧でない人は、植物性たんぱく質エネルギー比率が1%増加するごとに、脳卒中による死亡のリスクが50%低下することが示唆されました。
高血圧患者では、統計学的に意味のあるリスク低下はみられませんでした。
なお、脳出血で死亡した患者はもともと少なく、さらに高血圧の有無で対象者を分けて分析したためか、高血圧のある人でもない人でも統計学的に有意なリスク低下は見られませんでした。
著者らは、「植物性たんぱく質の積極的な摂取は、特に高血圧のない人たちにおいて、将来の心血管疾患を予防する可能性がある。今後、そのメカニズムを明らかにする研究が必要である」と述べています。
原著論文
Kurihara A, et al. J Atheroscler Thromb. 2018 Aug 9. doi: 10.5551/jat.44172.