くめちゃんのつぶやき脳No.125 ◇うつ病患者の食事療法、ポイントは「トリプトファン摂取」
うつ病の食事療法としてトリプトファンを多く含む食事が有効という、脳と食の講座の中でも何回となく話してきたことを裏付ける報告がありましたので紹介します。
うつ病では悲哀感、希望喪失、易刺激性、身体機能障害などの特徴がみられ、数週間にわたり重症の症状を呈する。
また、気分変調症は軽度の抑うつ気分が漫然と続いた状態。
うつ病の治療には、さまざまな治療法があるが、これまでの臨床的および経験的エビデンスから、適切な食事が抑うつ症状を軽減しうることが示唆されている。
オランダ領アンティル・Saint James School of MedicineのFaisal Shabbirらは、食事が抑うつに及ぼす影響について考察。
神経伝達物質であるセロトニンの低下はうつ病の一因であるが、セロトニンの前駆体であるトリプトファンを多く含む食事が抑うつ症状の軽減に有用であることを示唆した。
主な知見は以下のとおり。 ・脳内で合成される神経伝達物質のセロトニン(5-HT)は、気分緩和、満足 感、睡眠の調節などに重要な役割を果たしている。5-HTを多く含む果物や 野菜があるが、血液脳関門の存在により5-HTは中枢神経系に容易に到達で きない。しかしながら、5-HTの前駆体であるトリプトファンは容易に血液脳 関門を通過できる。
・トリプトファンは、ビタミンB6誘導体であるピリドキサールリン酸存在下
で、トリプトファンハイドロキシダーゼおよび5-HTPデカルボキシラーゼに より5-HTに変換される。
・タンパク質の多い食品であっても、必須アミノ酸は体内でつくることができ ないため、トリプトファンの含有量が少ない食事をしているとうつに陥る可 能性がある。
・たとえば月経前後の女性、心的外傷後ストレス障害、慢性疼痛、がん、てん かん、パーキンソン病、アルツハイマー病、統合失調症、薬物依存など、う つに陥りやすい状況にある患者ではトリプトファンを多く含む食事が重要で ある。
・中枢神経におけるトリプトファンのバイオアベイラビリティは炭水化物の欲 求に関連するが、炭水化物を多く含む食事はインスリン反応の引き金となり トリプトファンのバイオアベイラビリティを高める。
・セロトニン再取り込み阻害薬は(SSRI)は、抑うつ症状を呈する肥満患者 に処方されるが、これらの患者ではセロトニン濃度が厳格に調節されず、モ
ノアミンオキシダーゼ阻害薬と併用した際には生命を脅かす有害事象が発現
する可能性がある。しかし、トリプトファンを多く含む適切な食事を摂取す ることでセロトニン合成が調節されうる。
・以上より、さまざまな神経変性疾患で観察される抑うつ症状に対し、セロト ニン神経伝達を助ける上でトリプトファンを多く含む食事とビタミンB6は 臨床的に重要と言える。
ただし、うつに対するセロトニン神経伝達を修飾する薬理学的介入は、従来と変わらず臨床的に重要な事項である。
また、うつの病態にはその他にもいくつかの分子メカニズムが関わっている可能性がある。
原著論文はこちら
Shabbir F et al. Neurochem Int. 2013 Jan 7. [Epub ahead of print]