102歳をらくらく生きる脳科学的健康講座No.645
- 竹内久米司
- 12 分前
- 読了時間: 6分
脳科学が証明—睡眠の質を高める香りのメソッド
クイズで学ぶ「快眠を導く香り」
【問題】
快眠を導く「香り」の説明として、間違っているものはどれでしょう。
(1)ラベンダーの香りは入眠を促すだけでなく、深い眠りももたらしてくれる
(2)本人がくさいと感じた香りは、睡眠を誘う成分があっても効果は期待できない
(3)香りをかごうと意識すると、呼吸が早くなり、眠気が取れてしまう
(4)就寝前の香りの強さは「ほのかに香ってくるくらい」に調節する
さて間違っているのはどれでしょう
理由も併せて考えてみてください

【解説】
🌿「香りで眠れる」は本当?——医療現場で注目される“臨床アロマ”の力
「香りでぐっすり眠れた」という経験、ありませんか?
じつはアロマセラピーは、ただの癒しを超えて、医療の現場でも患者さんの痛みや不安を和らげる“補完療法”として使われています。こうした“臨床アロマセラピー”は、科学的な根拠に基づいて、心と体に働きかける香りを活用するものです。
なかでも睡眠への効果が多く報告されているのが、ラベンダー。
1937年に「アロマセラピー」という言葉が誕生する以前から、ラベンダーには鎮静や鎮痛の作用があるとされてきました。戦争中には、傷ついた兵士の手当てにも使われたほどです。
ラベンダーは“安心して眠れる”“傷が早く癒える”——そんな経験から生まれた知恵が、今では多くの科学的データに支えられるようになってきています。
香りで眠りの質が変わる——そんな研究結果が、世界各地から報告されています。
イランの介護施設で行われた調査では、60歳以上の高齢者50人を対象に、ラベンダーの香りが睡眠に与える影響を検証しました。
対象者を2グループに分け、一方には1週間、毎晩ラベンダーの香りをかいでもらったところ、なんと「寝つき」「睡眠時間」「中途覚醒」「日中の眠気」など、多くの項目で改善が見られました。
調査には、睡眠の質を評価する「ピッツバーグ睡眠品質指標(PSQI)」が使われ、香りを使ったグループは明らかに“よく眠れるようになった”と評価されたのです(Modern Care Journal, Oct 2017, DOI:10.5812/modernc.61602.)。
さらに台湾では、20代の若者9人を対象に、ラベンダーアロマの影響を脳波で調べた研究も。
眠っている間の脳波を解析したところ、リラックス時に多く出るアルファ波が減り、深い眠りを示すデルタ波が増加(Sci Rep. 2021 Jan 13;11(1):1078.)。
香りが、脳そのものの“眠りモード”を引き出していたのです。
ラベンダーの香りは、寝つきをよくするだけではありません。睡眠の「深さ」にも関わっていることが、脳波の研究からわかってきました。
例えば台湾で行われたある実験では、若者にラベンダーの香りをかいでもらい、その間の脳波を測定しました。すると、リラックス時に見られるアルファ波が減り、ぐっすり眠っているときに出る「デルタ波」が増加していたのです。
アルファ波は、寝ている最中に出ると「目が覚めかけている」状態を意味します。それが減るということは、中途覚醒が少なくなった可能性があります。一方、デルタ波はノンレム睡眠のうち、最も深い「N3ステージ」で多く現れる脳波。この“ゆったりと大きな波”が出ている眠りは「徐波睡眠(slow wave sleep)」と呼ばれ、脳と身体の回復にとってとても重要です。
つまり、ラベンダーの香りは「眠りやすくなる」だけでなく、「深く眠れる」状態まで導いてくれる——そんな可能性が、科学的にも示されつつあるのです。
🌸 香りで眠れる?——バラにも眠りを深めるチカラが
眠りを助ける香りは、ラベンダーだけではありません。バラの香りも、注目されています。
イランで行われたある研究では、手術室で働く緊張状態のスタッフ80人を対象に、ダマスクローズの精油が使われました(J Perianesth Nurs. 2022 Aug;37(4):493-500.)。
香りを染み込ませたナプキンを枕元に置いて1カ月過ごしてもらったところ、睡眠の質と不安感がどちらも改善されたのです。睡眠評価には「PSQI」、不安感の測定には「スピルバーガー状態不安尺度(SAI)」が用いられ、ローズの香りは“こころも眠りも整える”効果があることが示されました。
とはいえ、すべての人に同じ効果があるとは限りません。
ラベンダーはヨーロッパ由来の植物で、日本では馴染みがない人も多く、高齢者の中には「くさい」と感じる人もいます。
香りが心地よいかどうか——それこそが、アロマの効果にとって最も大切なポイント。
いくら鎮静作用のある成分が含まれていても、本人がストレスを感じる香りでは、逆効果になることもあるのです。
「どんな香りが“いい香り”かは、ひとりひとり違う」——それが、臨床アロマの奥深さでもあるんですね。
香りには、心を整えるスイッチ」のような力があります。
でも、それは一人ひとり感じ方が違うもの。好きな香りなら安心できて、自然と眠りに導かれる——そんな経験、ありませんか?
逆に、苦手な香りは刺激になってしまい、不快感につながることも。香りの成分そのものよりも、“どう感じるか”が、睡眠への影響にとって大きなカギになるのです。
「気持ちよく眠れるかどうかは、安心感があるかどうか。だからこそ、“好きな香り”を選ぶことが重要です。
日本人の場合は、柚子やオレンジといった爽やかなかんきつ系の香りを好む人が多く、ほかにもサンダルウッド(白檀)や青森ヒバなど、どこか懐かしい木の香りも人気があります。
お線香の香りに親しんでいる人にとっては、そんな香りが「落ち着ける香り」として自然に馴染むのです。
香りの効果を引き出す一番のヒントは、「あなたが心地よいと感じること」。それだけで、眠りの質がぐっと変わるかもしれません。
不思議なことに、あまり眠りを誘う作用がないとされるペパーミントでさえ、「大好きな香り」と感じる人にとっては、心が安らぎ、自然に眠りやすくなるそうです。
このように、香りの効果はその成分だけではなく、“感じ方”が大きく影響します。精油が発する成分以上に、香りをかごうと意識することで呼吸がゆっくりと整い、副交感神経が優位に。これがリラックスにつながり、眠りやすい状態を作ってくれるのです。
ただし、香りの強さには注意が必要です。
例えばラベンダーでも、濃度が高すぎると逆に覚醒してしまうこともあります。
寝る前は「ほのかに漂う」程度の香りが理想。精油はディフューザーなどで数滴だけ——部屋の広さによって調整しましょう。
そして、朝の目覚めにも香りが活躍します。レモングラスやローズマリーなどの“覚醒系”の香りをティッシュに垂らして軽くかぐだけで、頭がすっきり冴えてくることも。眠りと香りには、「オンとオフ」を切り替えるスイッチのような関係があるのです。
正解(間違っている説明)は(3)香りをかごうと意識すると、呼吸が早くなり、眠気が取れてしまう です。
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