102歳をらくらく生きる脳科学的健康講座No.643
- 竹内久米司
- 8月9日
- 読了時間: 4分
脳が快楽の罠にハマる瞬間, クイズで学ぶギャンブル依存
【問題】
依存症の一つである「ギャンブル障害」の説明について、以下のうち間違ったものはどれでしょう。
(1)ギャンブルする時間や頻度を自分でコントロールできない
(2)ギャンブルを生活上の他の何よりも優先してしまう
(3)ギャンブル障害の遺伝率は10%ほど
(4)ギャンブル障害に当てはまらないものは「危険な遊び方」と呼ん
で区別している
(5)ギャンブル依存への対策は予防重視に向かっている
【解説】
依存症とは、脳が「快楽の回路」に囚われ、理性のブレーキが効かなくなる状態です。ギャンブルやゲームなどの行動嗜癖は、単なる“やりすぎ”ではなく、医学的に定義された障害となることがあります。2022年にWHOが定めた国際疾病分類「ICD-11」では、ギャンブル障害の診断基準が明確に定義されました。

WHOは「ギャンブル障害」と「危険な遊び方」を明確に区別しています。しかし日本ではその線引きが曖昧で、「ギャンブルはやればやるほど依存症になる」というイメージが広がっています。
「依存症」という言葉が使われると、・どんどん悪化する・一度ハマると回復できないといった誤解が生まれがちです。
実際には、少しハマっているだけで「病気」と決めつけるのは危険です。それが本人の無力感や家族の絶望感を深め、かえって問題を悪化させることもあります。
ギャンブル障害に至る人と、そうでない人の比率については、調査結果が示すように、実際には「危険な遊び方」にとどまる人が圧倒的多数を占めています。

日本では、「ギャンブル障害」と「ちょっと危ない遊び方」の違いがあいまいになっていることがあります。でも、世界ではこの2つをはっきり分けるようになってきました。
専門家の見解としては、以前はギャンブルやゲームの問題を大きくとらえすぎていたため、「本当に病気として治療が必要な人」と「まだ病気ではないけど危ない遊び方をしている人」を分けるようになったとのこと。
そして今では、病気になる前の段階でリスクを見つけて、悪化しないように予防することが大切だと考えられています。世界の対策も、治療より「予防」が重視されるようになってきています。
ギャンブル障害に陥る人は、負けによる“痛み”が効かず、損失を重ねてもやめられない状態にあります。こうした人たちは精神疾患や発達障害、心理的な問題を同時に抱えているケースが多く、それが依存の深まりに関係していると考えられます。
米国の調査機関NCRGの報告では、ギャンブル障害のある成人の約64%が、うつ病や不安障害、PTSDなどの精神障害を併発していることが明らかになっています。
つまり、ギャンブル障害は単なる「やりすぎ」ではなく、精神的な背景や脳の働きと深く関係した複雑な問題であり、適切な理解と支援が必要です(Gambling and Public Health: A Guide for Policymakers; National Center for Responsible Gaming)。
オーストラリアの研究では、ギャンブル障害のある人の7割以上が、うつ病、不安障害、ADHDなどの精神障害を併発していると報告されています(Aust N Z J Psychiatry. 2015 Jun;49(6):519-39.)。
また、ドイツの研究では、オンラインスポーツ賭博に関して、衝動性や感情の識別・抑制の困難、精神障害の併存、ストレスなどがギャンブル障害と深く関係していることが示されました。
こうしたリスク要因を持つ人には、早期の予防や治療的介入が重要であると、研究者たちは指摘しています(Front Psychiatry. 2024 Feb 27:15:1320592.)。
ギャンブル障害とその予防・支援についてのポイント
•ギャンブル障害には**遺伝的な影響が約50%**あるとされ、反社会的行動と共通する脆弱性も指摘されています。
•そのため、単にギャンブルをやめさせるだけでは治療にならず、リスクのある人には早期からの支援が重要です。
•特に小児期や思春期に、本人の背景をよく理解し、家族を含めた生活全体を支えることが予防につながります。
🌍 欧米で広がる「ハームリダクション(被害の低減)」の考え方
•強制的にやめさせるのではなく、健康や命を守るための支援につなげる方法です。
•例えば薬物の場合、リスクの少ない使い方を指導することもあり、これにより
•健康被害が大きく減少
•治療へのアクセスが向上
•日本でもこの考え方が導入されつつあります。
【正解】正解(間違っている説明)は、(3)ギャンブル障害の遺伝率は10%ほど です。
Comments